2023/08/14
質的研究とは、人間の経験や行動、感情、価値観、そして社会的な文脈といった「意味」を丁寧に理解しようとする研究の方法です。
統計や数値を用いた量的研究が「どれくらい」「何人に」などの定量的な情報を重視するのに対し、質的研究では「なぜそのような行動が取られたのか」「その経験にはどのような意味があるのか」といった問いに答えることを目的としています。そのため、研究者は対象者の語りや行動に注意深く耳を傾け、その背景にある価値観や信念、文脈を深く掘り下げていきます。
このような研究では、調査対象者の数は多くありません。むしろ、少人数でも一人ひとりの経験を丁寧にたどることにこそ価値があります。
たとえば、がん患者が病とどのように向き合っているのか、小学校の教員がICT機器を授業にどのように取り入れているのか、といった日常的な実践に内在する「意味の構造」を明らかにするためには、形式的なアンケートだけでは十分とはいえません。そうした現場には、場面や関係性によって語られる「ことば」や「沈黙」、さらには表情や身ぶりなども含めた豊かな情報が存在しているのです。
質的研究で用いられる代表的な方法には、半構造化インタビュー、参与観察、フィールドワーク、ケーススタディなどがあります。これらの方法では、研究者があらかじめ仮説を立てて検証するというよりも、実際の現場や人々の語りから出発し、そこに見られるパターンやテーマを少しずつ見出していきます。その過程では、予想外の気づきを得ることも多く、研究者自身の視点が変化していくこともあります。
手法名 | 説明 |
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インタビュー | 半構造化(自由度のある)質問で、個人の経験や感情を聞き出します。 |
参与観察 | 研究者が調査対象の現場に入り込み、行動ややりとりを観察します。例:学校や病院など。 |
フィールドワーク | 現地での調査を通じて、文化や習慣を体験的に理解します。人類学や民俗学で多く用いられます。 |
事例研究(ケーススタディ) | 特定の事象や個人、組織などを対象に詳細な分析を行います。 |
また、質的研究では、研究者がデータとどのように向き合い、どのように解釈を作り上げていくかという過程全体が問われます。そのため、透明性や倫理性がとても大切です。特に、人間の生活世界に深く立ち入る研究であるからこそ、対象となる人びとの尊厳を守り、誠実な態度で関わる姿勢が求められます。
質的研究とは、数値だけでは捉えきれない人間の営みの奥深さに迫ろうとする研究方法です。複雑で、矛盾や葛藤に満ちた現実を単純化せず、そこにある意味の構造やつながりを丁寧に読み解いていこうとする姿勢が、質的研究の根底にはあるのです。
半構造化インタビュー 文字起こし
https://www.tapeokoshi.net/semi-structured/
逐語録 コード化・カテゴリー化
https://www.osaka-p.com/tape/interview.html