テープ起こしの練習についてお伝えするシリーズ。
今回は 原稿作成編 です。
はじめに:テープ起こしの本質を理解する
前提として、テープ起こしはタイピングの仕事ではありません。音声を正確に文章化するためには、何よりも話されている内容を理解することが最重要です。タイピングの速さや正確性は、実際の業務を通じて自然と向上していきますが、内容理解力は意識的に磨く必要があります。
1. 内容理解こそがすべての基本
なぜ内容理解が重要なのか
音声を文章化する際、最も大切なのは「何を話しているか」を理解することです。話者がどのような立場で、どのような文脈で、何について語っているのかを把握する必要があります。
例えば、会議の音声を起こす場合:
– 発言者Aさんはどのような立場で話しているのか
– 今、何のトピックについて議論しているのか
– 前後の文脈から、この発言はどのような意味を持つのか
これらを理解することで初めて、聞き取りづらい部分も推測でき、正確な原稿を作成できるようになります。
2. 音(Sound)ではなく声(Voice)を聞く
Soundを聞くことの限界
音楽を聴くように、音声から聞こえる声を「音(Sound)」として捉えてしまうと、上記の内容理解から離れていきます。
Voiceを聞くということ
「声」を聞くとは、以下を意識することです:
– 話者の意図を理解する
– 話の流れや論理構造を把握する
– 専門用語や固有名詞の文脈での使われ方を理解する
– 話者の感情や強調したいポイントを汲み取る
3. 文脈を読む力を養う練習方法
実践的な練習ステップ
ステップ1:短い音声から始める
– YouTubeの講演動画やポッドキャストから5〜10分程度の音声を選ぶ
– まず全体を通して聞き、話の大まかな流れを把握する
– 話者が何について、どのような結論に向かって話しているかを理解する
ステップ2:セクションごとに文章化
– 意味のまとまりごとに区切って文章化する
– 一文一文を独立して起こすのではなく、前後の関係性を意識する
– 話の流れが自然になるよう、文章の繋がりを確認する
ステップ3:読み返しによる検証
– 文章化した内容を読み返す
– 意味が通らない箇所があれば、聞き取りミスか理解不足の可能性大
– 文脈から推測し、再度音声を確認する
4. 知らないことは調べる習慣をつける
インターネット検索の活用
すべての分野の知識を網羅することは不可能です。重要なのは、わからないことをそのままにせず、すぐに調べる習慣をつけることです。
調べるべきポイント:
– 専門用語の正確な表記
– 固有名詞(人名、企業名、製品名など)
– 業界特有の言い回しや略語
– 数字や単位の妥当性
効率的な検索方法:
– 聞こえた音に近い言葉で検索
– 関連するキーワードを組み合わせる
– 業界や分野を特定して検索範囲を絞る
– 公式サイトや信頼できるソースを優先する
5. セルフチェックの重要性
意味が分からない=どこか間違っている
文章化した内容を読み返して意味が分からない場合、ほぼ確実にどこかに間違いがあります。この原則を常に意識することで、精度の高い原稿を作成できます。
チェックポイント:
– 文章として日本語が成立しているか
– 専門的な内容でも、論理的な流れがあるか
– 前後の文脈と矛盾していないか
– 話者の立場や意図と合致しているか
6. 実践的な練習課題
初級編:
1. ニュース番組の音声(3分程度)を文章化
2. 内容を理解しやすい教育系YouTube動画の書き起こし
3. インタビュー形式の音声(話者が明確なもの)
中級編:
1. 専門的な内容の講演(自分の専門外の分野)
2. 複数人での討論番組
3. 業界用語が頻出するビジネス系ポッドキャスト
上級編:
1. 音質の悪い会議音声
2. 専門家同士の学術的な議論
3. 方言や訛りのある話者の音声
7. その他の練習課題
新聞や書籍を読むこともおすすめです。
結局のところ、内容理解のためには自分の知識を増やすことが近道であり、なんのウルトラCもありませんが、勉強することが大切になってきます。
ただし、テープ起こしの仕事として読もうとすると、完全なる三日坊主になりますので、あくまで自分が読みたいもの、読みたいジャンルであることが望ましいです。すべてのジャンルをカバーできるわけではありませんので、必要に駆られて読んで面白さを感じることも大切ですし、読みたい!と思う動機づけがあるのも大切です。
継続的な向上を目指して
これらを意識しながら練習を重ねることで、テープ起こしという原稿作成業務に耐えられるレベルへとスキルアップできるはずです。
まずは「理解する力」を磨くことに集中しましょう。