2023/08/14
テープ起こしの現場では、「ケバ」という用語がしばしば使われます。これは、話し言葉の中に自然に含まれる「えー」「あのー」といったフィラー(つなぎ言葉)や、「まあ」「なんか」などの意味の曖昧な言葉、さらには「うん」「へえ」といった相槌のような非意味的応答を指します。人が話すときには、ごく自然にこうした要素が交じりますが、文字に起こす際には、読み手の理解を妨げたり、情報の明瞭さを損ねたりする原因にもなり得ます。
テープ起こしのスタイルには主に三種類があり、それぞれケバの扱い方が異なります。まず「そのまま起こし(素起こし)」は、発話を一字一句そのまま記録する方法で、ケバもすべて含まれます。これは、法的な証拠や学術的な分析において、正確な記録が求められる場面で利用されます。一方、「ケバ取り起こし」は、フィラーや繰り返し、冗長な言い直しなどを取り除き、意味の通る文章として整える方法です。情報伝達の明快さや、読みやすさが重視される文書においては、このスタイルが好まれます。さらに、発言の要点を要約して再構成する「要約起こし」では、当然ながらケバは完全に排除されます。
「ケバ取り」は、特に会議の議事録作成において効果を発揮します。話し手が何を決定したのか、どんな方向性が示されたのかを明確に伝えるには、余分な言葉が省かれていた方が、読み手にとって理解しやすいからです。また、ビジネスインタビューや企業広報においても、発話そのままでは内容が雑然として見えるため、ケバを省いて整えることで、文章の印象が引き締まり、伝えたいメッセージがより的確に届くようになります。
講演や研修の記録を教育資料として整える場合も、「ケバ取り」は有効です。音声をそのまま起こしただけでは、読者が内容を把握するのに苦労することが多く、学習効果が落ちてしまいます。さらに、映像コンテンツの字幕制作においては、短い時間で表示されるテキストの読みやすさが求められるため、意味の薄い語句は削除され、内容だけを簡潔に表現することが重要です。
適用場面 | 目的・背景 | ケバ除去の効果 |
---|---|---|
会議の議事録作成 | 会議内容の記録と共有 | 発言の趣旨が明確になり、読みやすく端的な文書となる |
ビジネスインタビュー・広報 | 社外向けの文章として整える必要がある | 洗練された印象を与え、メッセージが伝わりやすくなる |
講演・研修の記録資料 | 教育や復習のための教材として文書化する | 読者が本質を把握しやすくなり、学習効率が上がる |
映像の字幕やナレーション | 映像コンテンツの補助として短く明瞭なテキストが必要 | テンポ良く読めて、視認性・理解度が向上 |
社内共有の発言ログ | 他部署やチームへの情報共有 | 曖昧な表現が削除され、正確かつ簡潔な情報伝達が可能になる |
ただし、ケバを取り除く際には注意も必要です。ときにそれらは話者の人柄や語り口調、感情を伝える重要な要素でもあるからです。たとえば、人物インタビューにおいては、あえて一部のケバを残すことで、自然な雰囲気や語り手の個性を保つという手法もあります。また、法的文書や医療・研究記録のように、発話の正確な再現が重要な分野では、むしろケバを除去せず、忠実に記録することが前提となります。
このように、「ケバ取り」は、テープ起こしの目的や読み手のニーズに応じて使い分けられるべき手法です。情報の整理と伝達においては非常に有効でありながらも、その除去が発話の「生っぽさ」を失わせる可能性があることにも配慮が求められます。文書としての明瞭さを重視するか、あるいは話し手の人間味を残すか。状況に応じた判断が、質の高いテープ起こしには欠かせないのです。
ケバ取りテープ起こし
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文字起こしケバ取りは「自分で作ってはいけない」
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【出版・ウェブ掲載】ケバ取りと整文どちらが良い?
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