2023/08/14
「ELAN」は、マックス・プランク心理言語学研究所が開発した、音声や映像データに注釈を加えるための高度なソフトウェアです。主に言語学や人類学、会話分析、手話研究などの分野で活用されており、映像や音声に対して時間軸に沿った精密な注釈を行うことができます。このツールの最大の特徴は、タイムコードと同期した多層的な注釈構造を備えている点にあり、言語現象の分析をより柔軟かつ豊かなものにしてくれます。
ELANでは、ひとつのメディアデータに対して複数の「Tier(層)」を設定し、それぞれに独立した情報を記述することが可能です。たとえば、ある会話の発話内容を記録する層、話者の感情を示す層、さらに動作や表情などを記録する層を個別に作成することで、単なる文字起こしにとどまらない、マルチモーダルな分析を実現できます。
注釈データはすべてXML形式で保存され、拡張子は「.eaf」となります。また、Unicodeに対応しているため、日本語をはじめとした多様な言語に対応しており、少数言語の記録や手話の研究といった、多言語・多様式の分析にも適しています。時間軸はミリ秒単位で設定できるため、発話単位や音節単位といった細かな分析にも対応しています。
このような特性から、ELANは音声言語の文字起こし、手話の非音声的要素の記録、フィールドワークにおける言語の記録、さらには学習者コーパスの構築など、さまざまな用途で利用されています。映像資料に動作やジェスチャーの注釈を加えたり、インタビュー映像に話者の意図や文化的背景を記録したりする際にも、非常に有効なツールです。
操作はGUIベースで、視覚的なインターフェースを通じて直感的に注釈を加えることができます。ただし、自由度が高い分、基本的な操作にはある程度の慣れが必要です。公式サイトでは英語のマニュアルやチュートリアル動画が提供されており、日本国内の研究機関や大学でも日本語による解説資料が公開されています。
研究者にとってELANは、単なるツールというよりも、複雑な言語行動を記録し、視覚化し、構造的に分析するための強力なパートナーと言えるでしょう。データを多面的かつ正確に捉えたいと考える研究者にとって、ELANは非常に有用で価値ある選択肢となります。
ELAN 文字起こし
https://www.tapeokoshi.net/elan-annotation/
ELANの使い方~インタビュー文字起こしの会話分析~
https://www.tapeokoshi.net/887/
ELANの使い方は少々、難しい
https://www.tapeokoshi.net/876/